「花見」


「最近暖かくなってきたわね」
「そうだな」
 先頭を行く金髪青眼の少女の言う通り、昨日までは日陰に入るとコートが必要な寒さだったが、今日はコートなしでも過ごせる陽気だ。道の端に春を告げる小さな花も増えてきた。
「そう言えば花見の時期だねぇ。ミリィ君、せっかくだからここらで花見でもしようか」
「おお!ロイさん、名案!」
 軽薄な笑みを浮かべた銀髪の男の提案に、イベント事に目がないお祭り娘、ミリィは瞳を輝かせている。
 そのやりとりを呆れた目で見つめ、黒髪の少年は口を開いた。
「花と言ったら桜だろう?それに、この辺りは桜どころか花の咲くような木もない。花見は無理だろう」
 彼の言葉に、ロイは眼鏡をキラリと光らせて。
「ルル君、解ってないねぇ。ハナというのは草木だけを指す言葉じゃないんだよ」
「は?」
「……!そうね!!」
 わけが解らないと渋い顔をするルルとは対照的に、得心がいった様子で声を上げるミリィ。
「可愛い子も美人さんも、華って言うもんね!」
「そうそう」
「つまり、ルルを見ながら食事すればいいのね!」
「え」
 ミリィの言葉に頷いていたロイの表情も固まる。
 この流れは予想していなかったらしい。
「艶やかな黒髪、全てを凍てつかせる眼差し。孤高なその姿はさながら黒百合のような麗しさ……!いいわね、グッとくるわ!」
 そうと決まればお弁当は……と、一人でずんずん進んでしまうミリィ。そして、気持ち的に置いてけぼりな男たちは呟くのだった。
「普通、華は女性を指す言葉だと思うんだけどねぇ……」
「勝手にしてくれ……」