不幸の中の少女


昔、むかしのお話です。


あるところに、少女がいました。

少女の父親は、少女が小さい頃亡くなっていました。
それでも母親と二人、貧しくも慎ましやかに暮らしていました。

しかし、少女が10歳の誕生日になる前に母親も死んでしまいました。

少女は独りになりました。
毎日のように悲しみに暮れました。
けれど何もしないでは生きてはいけません。

少女は朝から夜まで働きました。
働いて働いて働いて、それでも少女の暮らしは絶望を辿るばかりです。
少女の見た目は、捨てられたぼろ雑巾のようになってしまいました。

あぁ!私はなんて不幸な人間なのだろう!

少女は嘆き悲しみました。
絶望に打ちひしがれ、何度となく泣きました。

『あの子はなんて可愛そうな子供なんだろう』

世間はそう噂しますが、誰も少女を助けようとはしませんでした。

少女はもういつ死んでもおかしくないと思っていました。
私は不幸、私は可哀想な子。
きっと最後にお迎えにくるのは神様ではなくて悪魔なんだわ。

あぁ!私はなんて不幸な人間なのだろう!

しかし、少女の前に現れたのは神でも悪魔でもない、人間でした。
さる名家の老夫婦だったのですが、二人には子供が授かりませんでした。
そこへ少女の噂を聞き、養女に迎え入れたいと申したのです。

少女はその誘いを、素直に受けました。


新しい家はとても広く、豪華で、見たこともないような家具がいっぱいあります。
子供のいなかった老夫婦は優しく、甘やかしてくれます。
何一つ不自由なく、幸せがそこにはありました。
町の人々も「羨ましい」と噂を風に運ばせます。
少女は悲しみを乗り越えて幸せを手に入れたのでした。

めでたし、めでたし。







お話はここで終わり---?





まだ少しだけ続きがあるのです。



けれど、少女の心は不幸せでした。

亡くなった両親のことを思い出しているから?
辛かったけれど住み慣れた町を離れたから?

いいえ、どちらも違います。

少女が夢の中のような幸福にまどろむのは不幸の中だけなのです。
不幸せな自分。
それでも健気に生きる自分。
遠巻きに、哀れむように見守る町人<かんきゃく>。

悲劇の主役。

それこそが少女が幸せを感じる舞台なのです。
幸せになってしまえば、少女は主役ではないのです。

一つの物語は終焉を迎えました。
けれども少女には、喜劇の中で生きる喜びを見出せなかったのです。


少女は裸足のまま、家を抜け出しました。
その後の行方は、誰もわかりません。





不幸の中で幸福を探す、憐れな少女の物語はここでお終い。



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