バレンタインデー


「今年もチョコ、いる?」
 バレンタインデーに友達に配る焼き菓子を試作している私の姿を、ぼんやりと眺めている幼馴染に尋ねた。
 彼は奥手なのか、浮いた話を聞かない。
 毎年、探りを入れるのも兼ねてチョコが欲しいか聞くのだが。
「くれるんならありがたく頂きますよ」
 去年と同じ返答。
 彼の性格上、好きな子ができたら、その子以外からのバレンタインチョコなど受け取らないだろう。例え義理チョコでも。
 毎年変わらない彼の態度にため息を禁じえない。
「もうそろそろアンタも彼女作ったら?
春から私も大学生だし、素敵なキャンパスライフで彼氏ができて、来年はアンタにチョコ作ってあげられないかもしれないし。
アンタ顔だけはいいんだから、素直に想いを伝えたら彼女くらいすぐにできるんじゃない?
ああ、でも、『くれるなら〜』みたいに受け身な態度はダメね。本命の子にはガツンと『俺にチョコくれ』くらい言わないと」
 ボウルに入る生地を混ぜ合わせながら講義すると
「ガツンと、か」
 復唱される。
 鬱陶しい、と聞き流されるだろうなと思っていたのにちゃんと聞いていてくれて、顔が綻ぶ。
「そう。ガツンと、よ」
「じゃあ」と彼が口を開く。
「俺にチョコくれ」
「言われなくても、そのつもりよ?あげる気なかったら、いるか〜なんて聞かないでしょ?」
 今度は彼が盛大にため息をついた。
 なぜため息をつかれないといけないのか、首を傾げていると彼は言った。

「友チョコとか義理チョコじゃない、本命チョコくれって言ってんの。お前が俺の本命なんだよ、いい加減気づけバカ」



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