02-b. ( 8/17 - interval )


キラキラと、宝石のように輝く島。
中央になだらかな山を抱えているから、建物が段々畑のように連なり、夜でも家々の明かりで島の輪郭がくっきりと分かる。
ウイング伯爵領最大の港町、サイドギャザー。
火薬を乗せたままの航海は、かなりのリスクを伴う。だから、近場で降ろせる港を探していたのだが。
「結局ここか……。何か、お手伝いしちゃった気になるね」
港は目と鼻の先。漁船や商船に交ざって海軍の船も見える。
「海賊が港に停泊できるのか?」
クレスの素朴な疑問に、スコットは上を指して応じる。
視線を指差す先、海賊旗がはためいているはずの所へと移す。が、そこに海賊旗は無く。
「……白い翼を持った馬……?ウィスパー家の紋章!?」
ウィスパー家は、皇帝を守る騎士を多く輩出してきた一族で、王の右腕と呼ばれるほど有力な貴族だ。
「そ。港に入る時は、ウィスパー家所有商船扱い。だから大丈夫」
そして、帝国運輸局を実質運営しているのはウィスパー家。スコットが言っていたパトロンがウィスパー家ならば、運輸録のことも合点が行く。
港に停泊したエリエール号に、紺の軍服を着た男たちが駆け寄る。
「お帰りなさい。今日も何かあるのかい?」
「危険物がいくらか。降ろしたいんだけど、良いかな?」
「オッケー」
気さくな雰囲気。
「知り合いなのか?」
荷下ろしの準備で慌しくなる船内。邪魔にならないよう、スコットの隣に腰掛ける。
「まぁ、十五年も乗ってるからね」
肩の傷は浅いのだが、医者も兼ねている副船長に絶対安静を言い渡されているスコットは、手持ち無沙汰に中空を見つめている。
「そうか」
少しの沈黙。
唐突に、クレスは聞いた。
「傷、痛むか?」
神妙な面持ち。トイの診断が効いているのだろう。
「トイはいつも大袈裟なんだよ。この前なんて転んで擦りむいただけなのに、包帯でぐるぐる巻きにするしさ」
だから、と。傍らの少年の頭に手を乗せる。
細く、少しクセのある金髪。腹違いの妹を思い出す。
「心配すんな」
「ん」
目を伏せるクレスを、柔和な目で見ていると。
「スコットさーん。カードが届いていますよー」
先程の運輸局職員の声。顔を出すと、カードを投げ渡してくれる。
無地のカードには、流麗な文字で一言。
「ユニチャームで待つ?」
それだけで、差出人を理解したスコットは顔を曇らせ、頭を抱える。
「えー、マジ?アイツ来てんの?あー、やだやだ。絶対また何か面倒事押しつけられるよ」
「知り合いからなのか?」
話が飲み込めないクレスは首を傾げている。
「知り合いなんてもんじゃないよ。あれはもう、鬼だね、悪魔だね。俺がどんなに逃げようと、地の果てまで追ってくる最悪最凶のモンスターと言っても過言じゃない」
ますます訳が分からない。
スコットはフラフラと立ち上がり、この世の破滅を予見したかのような、げんなりした表情で、
「今日は宿を取るよ。仕事が終わったら、宴会でもして楽しんで。じゃ、お先に。お休み」
そういい残し、街へと消えて行った。




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