マッチ売りの少年と天使のお話1 ( 12/24 - white chistmas )


「あーもう、どこにやったかなぁ……」
「兄様、本当にこの部屋にあるの?」
 主がいない間に掃除された、埃一つ落ちていない部屋がみるみる汚れていく。引っ越しをしてから4ヶ月は経っているはずだが、公務が忙しくて片付けられなかったのだろう、部屋には未開封の箱がたくさん積んである。それをこの部屋の主は片っ端からひっくり返しているのだ。
「ちゃんと入れた記憶はあるんだけど……どの箱に入れたか覚えてないんだよねぇ」
 盛大に散らかした部屋の真ん中に座り込み、彼は困り顔でわしわしと頭をかいた。
 この国では、12月24日の夜、クリスマスイヴと呼ばれる冬の祭典が催される。その祭典では、1年の健康を祈ってオーナメントをモミの木に飾り付けるのだが。
「あるのは間違いないんだけど……これもハズレかぁ」
 手近にあった箱を覗き、ため息を吐く。捨てることが苦手な性分なのか、箱から出てくるものは10年以上使われた形跡のない子供向けの玩具や、参考書ばかり。
 彼が探しているのは、飾り付けに使うオーナメント。それは、子供が生まれると作られ、貴族、庶民関わらず、一つ一つ細工師が持ち主を象徴する生き物をあしらう、世界で1つしか存在しない物だ。
「今から注文しても間に合わないし……」
 基本、オーナメントは一人が一つ持ち、生まれた時から一緒に年を重ねていく物とされているが、不慮の事故で壊してしまったり、無くしてしまったりした場合は、再度同じ様なものが作られる。一ヶ月前に気づいたイトコが注文しなくて大丈夫か?と聞いてくれたのだが、あるから大丈夫の一点張りで注文しなかった。今から作ってもらっても、今日の今日では出来上がらないだろう。祭典の中心人物である国王のオーナメントが無いのは大問題だ。
「いや、絶対ある!クレシアもさ、探してくんない?」
 危機に直面しているはずの国王、スコッティはいつもの調子で朗らかに言った。大好きな兄の言葉に、クレシアは頷く。それに、放っておいたら、部屋が汚くなるばかりで見つからなさそうな気もした。
「兄様の象徴って何だっけ?」
 近くの箱を開き、クレシアは尋ねる。幼い頃から離れて暮らしていたせいもあり、探し物の特徴を知らない。
「翼の生えた蛇」
「蛇……?」
「そ、蛇。ずる賢いイメージがあってあんまり好きじゃないんだけど」
 どんがらがっしゃん。
 返事をしながら、また新たな山を作ってゆく。箱から出した中身を片付けずに次から次へと出していくので、目的の物があっても埋まってしまいそうな気がする。
「頭の良い子に育つように〜ってことなのかな?……あれ?」
 象徴は全て親が願いを込めて決める。その意味を考えて彷徨っていた視線が、山の中に目的の物を見つけて止まる。
「これじゃない?」
 クレシアが拾い出したのは、オーナメントがすっぽり収まりそうな正方形の箱。中身が入っているか早速空けてみると。
 中から出てきたのは、オリーブグリーンの地に銀細工で尾の長い鳥があしらわれたオーナメント。
「あれ、これ……」
 どうしてこれを兄が持っているのか。戸惑いの視線を向けると、スコッティは微笑んだ。
「それ、天使が俺にくれたんだ」




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