マッチ売りの少年と天使のお話3 ( 12/24 - white chistmas )
「天使が……?」
兄の言葉の意味が理解出来ずに、クレシアは首を傾げる。
「太陽の石」と呼ばれるペリドットを模したガラス玉に、女神の一族にのみ許される「尾の長い鳥」の意匠。これはクレシアのオーナメントにうり二つだ。
「あの後、結局トイに世話になったんだよね……給料日まで毎日説教されるし。ああ、良い思い出のようなそうでもないような」
スコッティはオーナメントを手に入れた時のことでも思い返しているのか、遠い眼差しで百面相を演じている。
「兄様、どうしてこれを兄様が?兄様のは蛇なんじゃ?」
金の余った貴族がオーナメントを2個も3個も作ることもある。が、そうだとしても細工に使用する動物は変わらない。
尋ねるクレシアに兄は微笑みを向けるだけで答えてくれない。
「兄様……?」
「やあ、当日になって慌ててオーナメントを探しているという、王とは思えない失態を演じるスコッティ陛下の部屋はこちらかな?」
と、開け放たれた扉の向こうに現われたのは、いつも以上にど派手な恰好をしたスリムの姿。
「……今日もすごい恰好だね」
クリスマス向けの礼装をまとうスコッティとクレシアも、それなりにきらびやかだというのに、それがかすんで見えるほどスリムの姿はまばゆい。よく見ると、服に電飾が仕込んであるようだった。
「んー、そこにおわすは間違いなく我らが敬愛せしスコッティ陛下のようだけれど、この部屋は物置にしてはものが散らかりすぎているね。とても王所有の部屋とは思えない惨状だ」
「嫌み言いに来たなら帰ってくんない?俺はさ、今、超忙しいんだよね」
スコッティが不機嫌な表情でにらみつけるが、空気読まない王スリムは臆することも知らない。
「哀れにも自室を探すスコッティ陛下に、恐れながら進言しにきたんだけれど……どうやらお邪魔のようだから放っておくことにするよ」
「いや待て。お前、俺のオーナメントがどこにあるか知ってるな!?」
踵を返すスリム。スコッティは慌てて立ち上がり、追いかける。その衝撃でからからと山のように積まれた小物が崩れる。
探しているオーナメントが見つかりそうなので、クレシアは兄が出した物を箱に詰め直す作業を始めることにした。
「4ヶ月も新米皇帝の世話をしていたせいかな、私の灰色の脳細胞もさび付いてしまったようで、数時間前まで思い出せなかったのだよ。王の右腕と誉れ高い私としては、思い出せた喜びよりも、思い出せなかった時間が口惜しくてならない。ああ、どうして私の崇高なる頭脳の回転は悪くなってしまったんだろうね」
入り口に立ち、舞台演劇のように大仰に両手を広げて朗々と語るスリム。
「んで、俺のオーナメントはどこにあんのよ?」
挑発に乗ることなく、スコッティは冷静に問いかける。と、目の前に煉瓦色の箱が差し出される。
「王宮を離れて海賊業に勤しんでいたあの頃、果たして君はクリスマスという祭に参加したことがあっただろうか?その時期は食べ物が軒並み高騰するからいつも金策にあえいでいたと私は記憶しているよ。そして、毎年のように私が君のオーナメントを飾り付けていた」
スコッティが受け取った箱を空けて中身を取り出す。中から出てきたのは、星空の海を羽ばたいている蛇が描かれたオーナメント。
「よし、見つかった!!!クレシア、今何時?」
「えっと……3時だと思う」
式典のリハーサルは4時からだ。これなら余裕で間に合うだろう。
「片付けは後でやるから、行こう」
スリムの話によると久しぶりのクリスマスなのだろう。オーナメントも無事に見つかり、浮かれたスコッティに腕をつかまれ、クレシアは立ち上がる。
「あ、これも持ってかないとな」
部屋を出る途中で思い出して、スコッティはクレシアの物によく似たオーナメントを手に取る。
「兄様、それも飾るの?」
妹の問いかけに、今度は答えがあった。
「覚えてないみたいだけど、これ、小さい時クレシアがくれたんだよ」
「私が……?」
「ああ。俺のお守り。すごい助けられた」
照れくさそうな兄の表情に、クレシアまで恥ずかしくなってしまって。
「おまもり……。に、兄様はダメダメ星人だから当然だよね!」
「ひっでぇなあ」
いつも通りのやり取り。二人は笑顔を向け合った。
end.
■