「騎士」


賑やかな町だ。
交易大国だった故国、グランバニアを彷彿とさせる栄え具合。時代が移り変わっても、この場所は人々が交わり発展を生み出す場所であり続けている。
町のあちこちで市場が開かれ、商人たちの明るい声が響いている。並べられたたくさんの商品。ここで手に入らないものは無いと思える程の品揃え。
人の出入りが激しいこの町は、ちょうど良い隠れ場所だった。
「今日はお休みかい?」
この町に常駐するようになって、顔馴染みになった喫茶店の店主が声を掛けてくる。
市場の中央にある広場に、テーブルと椅子を並べてあるだけの屋根も囲いも無い簡素な店。商品がお茶だけなのと、まわりに同じ形態の店があるのとで、客はほとんどいない。
「どちらかと言うと、買いに来た方なんですけど」
たくさんの人と商品が集まるここ、グランドリオンには、商売の副産物として情報も集まる。それを求めて来たはずだったのだが。
肩をすくめて見せると、店主は驚いた表情を見せる。
「おや、お医者だと思ってたんだけどなぁ」
魔術の研究が盛んだったジールとは反対に、魔力が無い者を中心として建国されたグランバニアは、魔術を使わない技術の研究が行われていた。その集大成と言えるのが医術だ。
かの国では常識だったことも、魔術が中心のここではそうではないようで。
「そこまで高度な知識はありませんよ。故郷で常識と言われていることを知っているくらいで」
それでも、ここの人たちが驚く知識だったらしく、一度、お婆ちゃんの豆知識レベルの話をしてからしばらく、話を聞きに来る人が絶えなかった。
「どこの国の生まれなんだい?」
「遠い国です。ものすごく」
空間的には近いのに、時間的には遠い。戻ることはもう出来ない。
はぐらかすように言った言葉を、店主は追及しなかった。
この町には、色々な事情の人間が集まってくる。深入りしないことが身を守る一番の方法なのだ。
新しくやってきた客の相手に向かった店主の姿を見送って、視線を戻す。
この町に来て1週間。2,3日で彼に見つかると思ったのだが、まだ姿を見せない。
彼はきっと、あの頃のまま、戦うことしか考えていないのだろう。
あの時は、結果的に一緒に立ち向かうことになってしまったけれど。
一緒に戦ってくれと言われたら、俺はまた断らなくてはいけない。
戦うこと、争うこと、誰かを傷つけることはしないと、彼女に誓ったから。
それでも、君は俺を探しているんだろうな。だから、せめて手助けが出来るように。助けとなる情報を求めてここに来た。
君はきっとやってくる。探し回ったくせに真っ直ぐここを突き止めたような顔をして。


そんな予感がするんだ。



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