「海水浴」


「青い海、白い砂浜、輝く太陽。目の前にこの三拍子がそろっている時、私たちがしなくてはならないことといえば何!?」
真剣なミリィの眼差し。彼女が導き出したい答え、それは察しが付く。
季節は春を過ぎ、夏に向かっている。晴れの日であれば、真夏日になることもある。
今日の天気は晴れ。それも、雲が一切浮かんでいない快晴だ。太陽が南中した今、風は爽やかだが、照りつける太陽で体温はうなぎ登り。体を冷やしたいという気持ちは解る……が。
「俺たちは先を急ぐ旅の途中なんだが?」
涼しげな態度を崩さず、ルルは言う。その冷たい視線に、一瞬臆したが、
「でも!今日は暑いし!」
「遊んでいる暇は無い」
「熱中症になるといけないし!」
「帽子をかぶったり、飲み物を小まめにとっていれば防げるだろう」
諦め悪く食い下がるミリィの言い分を、ことごとく否定してやる。
と。
「〜!!!!こんな綺麗な海を目の前にして素通りなんて、健全なる青少年の風上にも置けないわ!海水浴するべきよ!素通り、絶対反対!」
「お前たちだけで勝手に海水浴でもスイカ割りでも楽しめば良いだろう。俺たちは先を急ぐ、巻き込むな」
行く手を遮るように立ち塞がっていたミリィの脇をすり抜ける。
「……なのよ」
快活な彼女からは想像できない気弱な声に、思わず振り返ってしまったのが運の尽き。
「海なんて初めて見たのよ!?本当にしょっぱいのかな〜とか、泳いでみたいな〜とか思うでしょ、普通!」
ねぇ、行きましょうよ行きましょうよ行きましょうよと、肩をつかまれ揺さぶられる。
ガクガク頭が揺れて、気持ちが悪くなってくる。
「ああもう!なんで俺たちまで行かなきゃいけないんだ!?」
ミリィの腕を振り払い、尋ねると。
「大勢で遊んだ方が楽しいからよ!」
それ以外に何があるのと言わんばかりの態度。
「それに……ね」
強気の態度から一変、優しい眼差し。
彼女の示す先に視線を動かすと。
海をキラキラした瞳で一心に見つめる少女の姿。少女は、兄に見られていることに気づくと、恥ずかしそうに頬を染める。
「ごめんなさい、お兄様。海なんて本でしか見たことがなかったから」
急ぎますよね。と、パタパタと駆け寄ってくる。
何だか、うまく誘導されているような感じがして気が進まないが。
「水着の用意がないから、泳ぐことは出来ないが……近くで見て行くぐらいはいいだろう」
ため息混じりに言うと、肩をポンと叩かれる。
「?」
振り返ると、カノン。そして、彼女が指さす先には、海の家然とした建物の前に「水着貸します」の看板が。
「あは。これは泳いでいくしかないよね〜」
「……」
ため息しか出なかった。





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