「令嬢と義賊2」
卒業過程は人それぞれだ。
学校や家に籠りきりになる者もいるし、私のように外へ資料を求めに旅に出る者もいる。
つまりは、卒業過程に当てられる1年間をどう過ごそうと問題ないわけだ。課題提出日に何かしらの結果を提出出来れば。
「1万ゼニーになります」
兎にも角にも、魔術に関わることはお金がかかる。故に卒業過程中、かかった経費は学校持ちになる。
「…カジャール払いで」
魔術学校カジャールの校章が描かれているカードを提示し、支払いを済ませる。
ここは小さな定食屋。貴族の子息が多く集まるカジャールにあるにもかかわらず、庶民的な料理、お財布に優しい値段を売りにする店だ。校舎から離れたところにあるが、味が好みでよく利用していた。
「あー、美味しかったー。お腹一杯。ありがとね。えっと…ミリィ」
パックンフラワーの中から助け出した時とは別人のような弾ける笑顔。
「どういたしまして。それにしても、よくそんなに食べられるわねー」
桁違いの量に、怒りよりもまず感嘆してしまう。何せ10人前を超える量を食べているのだ。線の細い身体のどこにそれだけの量が入るのだろうか。
「3日間食べてなかったから。あの植物、口の力が強くって」
先ほどカノンと名乗った少女は、髪と同じ色に頬を染めて、恥ずかしそうに言う。
パックンに噛み付かれたまま3日間。想像したくない。
「それで、食事代なんだけど」
「気にしないで…っていう量じゃないかもしれないけど、大丈夫だから」
学校払いにした料金は、過程終了後に学校に支払わなくてはいけない。その支払う額は、課題の出来によっていくらか免除される。料金以上の結果を出せば支払いは発生しないということだ。
「そんなわけには!」
思ったより義理堅い性格なのか、テーブルに手をついて立ち上がる。サービスで貰ったオレンジジュースがこぼれかける。
「いーから、いーから。ね?」
と、手をヒラヒラさせて言う私に、渋々カノンは座る。
「護衛は連れてないの?」
諦めきれない様子でいたカノンが、ふいに口を開く。
「え、うん」
街道も宿泊施設も整った道を行くつもりだったし、戦時中とは言え、治安も悪くないしで全く考えていなかった。
「貴族の娘なのに?」
基本、貴族は護衛を連れて歩く。治安がどんなに良くても、さまざまな特権を有する貴族は民の反感を買いやすい。貴族だとわかった途端、袋叩きに遭うということもある。
「え、何で解ったの?」
貴族だと解らないように、質素な服にしたというのに。食事代を全額支払ったせいかと思ったら。
「それでバレないつもりでいたの?呆れた」
カノンに服装を事細かに指摘されて、ようやく本当の質素な服を理解する。隣町に着いたら、洋服店で袖口のヒラヒラしていない服とレースや装飾品が使われていない上着を買おう。
「一宿…はしてないけど、一飯のお礼。護衛してあげる」
パックンフラワーに食いつかれていた姿が過ぎる。
「大丈夫だから。気持ちだけもらっとくわ」
苦笑いしつつ、断ろうとするが。
「あ、あれは気づいたときには腹ペコで力が出せなかっただけなの!これでも赤の義賊の隊長なのよ!」
引き下がる気は無いようだ。
旅は道連れ、世は情け。
友人を探すことと、課題を作り上げること。それにお茶目な義賊がスパイスとして加わって、旅が予想以上に面白くなりそうだ。