「魔王と魔女と妖精王」


こんなにも早く、この日が来るとは。


「ネリア、君には感謝しているんだよ。本当に」
穏やかな口調とは裏腹に、ナイゼルは手にした杖で動けなくなった異母妹の頬を打つ。
「それでも、お仕置きは大事だからね」
四百年前、この世に生きる全ての存在に恐れられた金色の魔王、ナイゼル。伝説では、2人の勇者が討った事になっているが、真実は違う。
「彼らも私と一緒に封印されたんだと思ったんだが、違うようだね」
争いを是としなかったエルフ族の姫君、フェミア。彼女を愛していたネリアは、フェミアの遺志を大事にした。
「兄上はまた、世界を虚無で包むおつもりですか」
怒りの眼差し、憂いを帯びた瞳。同じ父から受け継いだ深い紫の視線が交錯する。
「フェミアは優しい世界を望んでいたね。私も見たいのだよ。その清らかな世界を」
「その為に殺戮を繰り返すのですか!?フェミアはそんな事望んではいない!」
傷付いた腕に力を込め、立ち上がろうとする。
「それでも、君は人間と戦争をしているね?」
フェミアが亡くなるまでは戦女神と称され、常に戦いの中に身を投じていたエルフの女王、ネリア。その功績はいつまでも一族の中にあり続け、それらは次第に彼らの誇りを傲慢へと変化させた。
たとえ自分が始めたことではなくても、止められなかった責任がある。
言葉に詰まるネリアを、ナイゼルは踏みつける。
「そのおかげで、私は解放された。
私たちの中に流れる覇王の血は、戦いという手段でしか優しい世界を掴めない様だね」
ナイゼルはネリアの赤紫色の髪を持ち、顔を引き寄せる。
四百年前と変わらない若々しいネリアの姿。
度重なる戦いで傷付いた身体。弱まった魔力。それでも、眼差しは死んではいない。
「私のために働いてもらうよ、ネリア」
彼女の気性をそのまま映していた瞳が、影を帯びる。
「ナイゼル様の仰せのままに」
「そいつをどうするんだ?ナイゼル」
今まで、ただひたすら冷めた目で成り行きを傍観していたエメラルド色の髪の少女が、瞳と同じ温度で言う。
「ネリアが策を講じてないわけがないからね」
彼らが生きていると確信が持てる。
「襲い来る敵たちを妹に掃除させるのか。酷い兄上だな」
内容は非難だが、口調と表情は喜びに満ちている。
「セラ。私は悲願のため、仕方なくやっているのだよ」
ナイゼルの言葉に、セラは飴色の目を細める。
「知っているさ。私は共犯者なのだからな」



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