「令嬢と義賊と大佐」
魔術学校を中心として各種教育機関の集まるカジャールには貴族が多く、それ故に街も、どこか大人びた静けさを持っていた。決して活気が無かったわけではないが、この街と比べると無いに分類されてしまう。
交易大国として栄えた過去を持つグランドリオンは、おもちゃ箱をひっくり返したような、色とりどりの物にあふれた街だった。
「これでどうかしら?」
カジャールのすぐ隣ということで、よく顔を出していた馴染みの仕立て屋で、ミリィはカノンを相手にファッションショーをしていた。
「あ、ここはこっちの方がいいかも」
旅慣れているカノンの指摘を受け取り、今までの貴族のお嬢様然とした服装から、旅する庶民の美少女へと服装を直していく。
「ミリィちゃんも、もう卒業する年になっちゃったのねぇ」
時が経つのが早くて困るわ。とは言いつつも、仕立て屋の女主人は娘の成長を喜ぶかのような表情をしている。
「卒業過程が無事に済めばの話だけどね」
苦笑して答えながら、カノンの差し出したポーチを受け取る。腰のベルトに付けるタイプで、小さい割に奥行きがある。可愛いのに実用的。カノンはセンスがいい。
「何かを調べるんだろう?何を調べるんだい?」
服装の全体のチェックをしてもらうため、一回転してみる。カノンは満足そうに頷いている。義賊よりも服装コーディネーターの方が合っている気がする。
「魔術具について。まだ人の知らない物がアレントにはあると思って」
寿命の長いエルフの一族が治める森の中の国。魔術の生みの親とも言われ、人とは違う系統の術を使うとされている。その魔術にも興味はあったが、それを研究していたら提出期間を過ぎてしまうので、手っ取り早く済ませられる魔術具探しにしたのだ。
「アレントに!?今あそことは戦争中だよ!?」
国境から距離があるので、いまいち実感が無いのだが、カジャールとグランドリオンを内包する魔法王国ジールパドンは、アレントと戦をしていた。
「私が変身術得意なの知ってるでしょ?それにアレントの中心に行くわけじゃないから。大丈夫よ。大丈夫」
不安が無いわけがない。それでも、それに気づかせないよう、努めて明るく振る舞う。
「ダメだと言って聞く子じゃなかったわね」
諦めたようにため息を一つ吐き、
「これを持ってお行き。私からの進級祝い。生きて帰るんだよ」
女主人が引き出しから取り出したのは、青い石。お礼と共に手に取り、良く見る。魔術的な処理が施されているらしく、透き通る石の中に紋様が刻まれている。
「お守り石?」
石をまじまじと見つめて、カノンが問いかける。
「普通のよりも強力な防護呪文が編まれてるみたいだねぇ〜」
答えは別の所から返ってきた。
いつから居たのか、色素の薄い髪の色の男が、カノンと同じ様にミリィの手を覗き込んでいた。