「令嬢と義賊と大佐2」


「やぁ、カノン君。お久しぶり〜」
軽薄な笑顔を浮かべ、ヒラヒラと手を振る。
「ロ…ロイさん!?」
カノンの知り合いらしく、名前を呼ばれた男はにまぁと目を細める。
濃緑色のシャツ、黒いズボン、生成りの外套。旅する町人然とした服装だが、纏う雰囲気は只者ではない。
「こ〜んな所で何をしてるのかな〜?」
驚愕を隠せないカノンの顔を覗き込み、楽しそうにロイは聞く。ふざけた喋り方だが、眼鏡の奥の眼差しは冷ややかだ。
「カノン、知り合い?」
口ごもる様子から察するに、赤の義賊とやらの偉い人なのだろうか?
「ん〜。上司みたいなものかなぁ〜?」
応じたのはロイ。
「まぁぁた一宿一飯の礼とか言ってご迷惑をお掛けしてるんじゃな〜い?」
部下の行動などお見通しらしい。
「ダメだよん。君は僕の護衛なんだから」
カノンの顔を覗き込んで笑顔で威圧する。
「それに、面白いものも見つかったしね」
「魔術具が?」
カノンの呟きには答えず、ロイの視線はミリィを捉える。
「君、カジャールのお嬢さんだよねぇ?僕のお嫁さんにならない?」
「はぁ?」
突然のプロポーズに、ミリィと仕立て屋の敏腕女主人だけでなく、カノンまでもが間抜けな声を出す。
何で出自がバレたのか、ロイは実は貴族なのか、何を目当てでそんな事を言い出したのか。
憶測は止まないが、ただ一つ言えることはあった。
「謹んでお断りします」
「そっか、ザ〜ンネ〜ン☆」
本当に残念がっているのか疑わしい、おどけた物言い。そして、じゃあ行こっか、カノン君。と、踵を返す。
あまりに淡白な様子に、開いた口が塞がらない。関係者のカノンは頭を抱えている。
「ちゃんと付いてこないと置いてっちゃうよん」
入り口で振り返り、声を掛ける。
先ほど、カノンは何と言っていた?面白いものと言われて、魔術具と応えていなかったか?
半ば直感だった。この風変わりな男は、私が求めているモノに近いところに居るような気がした。
「待って、私も行く!」
性格にかなり難がありそうだったが、そんなことに構っていられない。
カノンに見立ててもらった服の代金を急いで支払い、彼らの後を追う。
「君も物好きだねぇ」
彼の人柄も素性も目的も、一切解らないまま同行を願う少女を拒否することなく、ロイは目を細める。
「後悔しても知らないよぉ?」


カジャールを出たときから覚悟はしていた。
人生振り返ることはしても後悔はしない、その覚悟を。
でも、何か間違っちゃったかも。



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