「令嬢と義賊と大佐と騎士」
食料品、生活用品、装飾品。手に取って品定めしたい商品ばかりだったが、立ち止まってはいられない。
方角的にはマーケットの飲食街へ向かっているのだろう、先頭を行くロイは、店と店の間という、とても通路とは呼べない場所ばかりを選んで進んでいく。
「は〜い、到着☆近道成功だよん」
能天気な声と共に、狭い通路を抜けると、広い空間に出る。
よりよい商品を求める商人の熱気、店代わりの小さなテント、そこに所狭しと並べられた商品。窮屈な所を通ってきたことと、視覚情報の多さで、無意識に息を詰めていたのだろう。人の姿と物が極端に少ない空間に、ホッとして息がもれる。
昼食の時間には遅く、夕食には早い今は、店じまい前の商店が活気づく時間。飲食街で食事をするなら穴場の時間帯だ。
「夕食とるの?」
飲食街とは言っても、街にあるようなレストランが立ち並んでいるというわけではない。そこには椅子と机と、軽食を売る小さなテントが何軒かあるだけ。ミリィの感想で言うなら、まるでカジャールの学園祭の模擬店のようだ。
「いや、人を探してるみたい」
ミリィの問いに答えたのはカノン。口ぶりから察するに、彼が何を目的にしてどこへ行こうとしているのか、知らないのは彼女も同じらしい。
2人が会話をしている間に、目標を見つけたのか、ロイは広場の奥に消えていた。
「情報?」
ロイが纏う雰囲気とは正反対の、実直そうな表情の少年。ミリィと同年輩に見える。
「そう、探してるものがあるんだよねぇ」
飲食街の最奥、東洋の茶を淹れている店のエリアで、ロイと少年は向き合っていた。
「すみません、俺は情報屋じゃありません。他を当たってください」
「金色の魔王、蒼き調和、紫眼の魔術師。知ってるよねぇ?」
ロイの言葉を聞いた少年の表情が、警戒の色を帯びる。その反応は、知っていると雄弁に語っている。
金色の魔王は知っている。でも、後の2つは、代々魔王を封印した水晶球を守ってきた一族のミリィですらも聞いたことが無い。
「あなたは一体…」
腰に佩いた剣に触れることはしなかったが、答えによっては切りかかられてもおかしくない雰囲気。間に割り入ろうとしたカノンを止め、いつもの調子でロイは返す。
「旅のしがない大佐だよん」
本気か冗談か。いまいち掴みきれない彼の言葉に、戸惑いを覚えたのはミリィだけでは無いようで。
「俺には答えられない事の方が多いですよ」
性格的な相性の悪さに観念したのか、柔和な顔に困った表情を浮かべて、少年は言う。
その様子を満足そうな表情で見下ろして、ロイは口を開く。
「異界黙示録を探してるんだ」