「魔王と魔女」
チチチチ……ピピピピ……
心地よいさえずり。
さすが森の都と呼ばれるだけあって、アレントは自然が豊かだ。
巨木をくりぬいて作られた妖精城の、街を一望できるテラスで、金色の魔王は優雅にティータイムを楽しんでいた。
「平和だね」
ここへ来た当初は戦争の準備などで、城だけではなく街全体が喧騒に包まれ、殺伐とした雰囲気が漂っていた。
今ではナイゼルの知る、穏やかで暖かなアレントに戻っている。
「これが平和か?」
鼻で笑って少女が問いかける。
この平穏な日常が見せ掛けのものだと、魔王の傍に居たセラだけが知っている。
「平和を得るのはとても簡単で……だからこそ何かしらの犠牲を必要とするものだよ」
木漏れ日と同じ柔らかい口調。しかし、その心は冷酷かつ合理的だ。
この男はきっと、己の生が不要だと感じれば、何の躊躇いも無く死んでしまうのだろう。
執着もしがらみも無い。純粋な存在。
「何かしらの犠牲……か」
冷めたポットを取り替えるネリアの姿が目に入る。
ナイゼルに意思を奪われた操り人形。彼女だけでなく、国政に携わる者、全てがそうだ。
為政者が支持しなければ、戦争は起こらない。現にアレントの民は、度重なる戦いに疲弊し、終戦を切望していた。
それ故に取り戻せた平和。
「私が眠っている間に、世界は変わってしまったようだね」
平和を愛する民の変貌。それだけではない。
昔を知るが故に感じる違和感。
「君の願いを叶えるのを、少し待ってもらっても良いかな?」
「ああ、構わない」
この男が何をするのか、実に興味深い。
「……私はこの世界を知らなければならないようだ」