「令嬢と皇子と義賊と大佐」


「おい、起きろ!!」
声が近づいてくる感覚。
ズキズキと痛む後頭部。
呼び声に応じて、目を開く。
見たことのない、綺麗な色の瞳がそこにあった。
「ナリは、ナリはどうした!?」
ひどく慌てた様子の少年は、先程とは違い、ちゃんと服を着ている。
藍色を主とした、簡素だが気品を感じる旅装。ケット・シーだから、この辺りに住んでいると思ったのに、違ったようだ。
「ミリィ、大丈夫?あの子はどうしたの?一緒だったんでしょ?」
「カノン……」
心配そうな表情の少女。戦っている時は鬼神のようだが、平常では同年輩の少女と何ら変わらない振る舞いを見せる。
「恥ずかしがってたくせに、裸で戦うなんて。結構大胆じゃない」
「あ、あれは!!」
一気に顔が赤く染まる。
あの時、彼女が己が身を顧みず先頭に立ってくれなかったら、全滅していた。
恥じらいよりも人命を優先する姿勢。簡単に出来ることじゃないと解っている。尊敬している。
でも、彼女の見せる年相応の反応が可愛くて、ついついからかってしまう。
「私しか前で闘える人がいないんだから、仕方ないじゃない」
口を尖らせるカノン。
「うん。すっごく助かった。ありがとう」
素直な感謝の気持ちを告げる。
毒気を抜かれて戸惑う表情もまた愛らしい。
「それで、ナリは……」
大分はっきりしてきた意識が、気を失う直前の映像を呼び起こす。
倒れていた少女。赤い衣装の女。
「いないの?」
気持ちを切り替え、深刻な顔で頷いたのはカノン。
となると、やはり。
「多分、ラク・シャア=ラに連れてかれたんだと、思う」
「何!?」
浴場で戦っていたはずの彼女が、どうやって脱衣場に来たのかは解らないが。
「人質にする気なんだろうねぇ。
ルル君、色々あるのかもしれないけど、がむしゃらに探すより、一緒に居たほうが良いと思うよ〜?」
さらわれたと知って、飛び出して行こうとする少女の兄を捕まえるロイ。
黒髪の少年、ルルは、激情を隠さずにロイの手を振りほどく。
「待ってなどいられるか!命の保証も、そもそも人質になるという確証すら無い。俺に構うな!」
奴隷という制度は大昔に廃止されているものの、水面下では未だに希少種族の誘拐・売買が続いているという。
「はーい。ストーップ」
ミリィが声をかけると、ルルは苛立ちを端正な顔に浮かべて振り返る。
「妹思いのお兄さんのために、私、ミリィさんが一肌脱いであげる」
「魔法で居場所が解るの?」
食いついてきたのは、我が事のようにナリを心配しているカノン。
「さっき戦ってる時、"同期"してたから。大まかな所まで追えると思う」
細やかな作業はあまり得意ではないが。
「どう?賭けてみない?」



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