「令嬢と皇子と大佐と若君と山男」


パラパラと音をたてて崩れ落ちる小屋の壁。どんな魔法を使ったのか、四方を囲む壁以外は無傷だ。
野性的な感覚で、他人の気配を察知する能力に長けたカノンは、予期せぬ敵の出現に驚きを隠せないでいる。
「チッ、隠形魔法か!」
微かな魔法の残滓すら嗅ぎ取れないくらい、気を抜きすぎていた自分が腹立たしい。
ルルは迎撃しようと術を組む。が、発動という所でかき消される。
「争うつもりは無い。紅の狼を返してもらいに来た」
小屋を破壊した人影は2つ。
身の丈よりも大きな矛を軽々と担いだ筋骨たくましい青年。
青年の一歩後ろに守られるようにいる、小柄な少年。
「お久しぶり、セシール君。声変わりしちゃったんだねぇ。残念」
口を開かなければ美少女の少年に、同郷なのだろうか、ロイは気さくに声をかける。
「それに、ラク・シャア=ラはここにはいないよ?」
「戯言を。蒼竜!」
セシールの呼びかけに、青年は「へいへい」と肩をすくめて応じて、外界との仕切りが無くなった小屋へと侵入する。
首を傾げるロイ。身構えるミリィとルル。
青年は一直線に台所へと向かう。
「元気してたか?カノン」
すれ違いざま、戸惑い、動けずにいたカノンの肩を叩く。カノンは俯いたが、小さく応じる。「そうか」と、青年の目が綻ぶ。
「さーてと、ここかなッと」
台所にしゃがんだ青年は、床下収納を勢いよく開ける。
そういえば、そこは食材を探した時も結局開けなかった。
「いたいた」
青年は中で伸びていたラク・シャア=ラを、片腕で軽々と引きずり出す。
え。
目的の人物の意外な登場に、一瞬時が止まる。
「ナリ!ナリはいるのか!?」
短い静寂を破ったのはルル。
焦りを隠さず、大男を押しのけ床下を覗き込む。が、そこに在るのは瓶に詰められた保存食ばかり。
「駄目、繋がらない」
ルルの様子で事態を察し、ナリの居場所を探ろうとしたが、彼女の魔力を見つけられない。
「ナリをどこへやった!」
「知るか。大方、紅のを気絶させて逃げたんだろ」
十中八九彼の言う通りだろう。そうでなければ、ナリをさらったはずのラク・シャア=ラが猟師小屋の床下で眠っているはずが無い。
「ナリは…ナリは一体どこに…!!!」



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