「令嬢と子猫と皇子と大佐と義賊」


「ルル君、ミカエリスは反対方向だよ〜」
後ろから掛かる、軽薄な声。
宿を出てから何度となく聞こえるその声は、ルルたちの後ろを歩いているロイのもの。
最初は、行く先が同じなのだろうと気にしていなかったのだが。
「……お兄様」
後ろを気にしながら、隣を歩く同行者が見上げてくる。ルルの瞳と同じアメジストの瞳には、困惑の表情が浮かんでいる。
ルルも、何度となく掛けられる声に、そろそろウンザリしてきた所だった。
ため息を吐き、振り返る。
「ミカエリスに行きたいのなら、お前たちだけで行けばいいだろう」
「え〜、どうして〜?」
大仰に首を傾げる。
どうしてって……。
ルルの端整な顔が歪む。やはり天使族とは気が合わない。
「それはこっちが聞きたいな。どうして俺たちの後を付けているんだ?」
ルルの問いに答えたのはロイと旅する少女たち。
「ロイさんが行くから」
「右に同じ」
シンプルな答えに、頭を抱えたくなる。
どうすればこいつらを撒けるのか。
いつもは明晰な頭脳も、苛立ちで上手く機能しない。
「ミカエリスに行こうよう」
四百年前と地名が変わっていないのなら、ミカエリスはアレントの隣に位置する人間の都市だ。それでも、アレントを目前にするルルたちが、ここから向かうには回り道になる。
「行って何になる?」
ナイゼルが禁呪を使う前に見つけなくてはならない。無駄足を踏んでいる余裕はない。
「あそこにはナイゼル君の魔力が封印されてるんだよ〜。封じられた魔力を取り戻さないと蒼き調和……あ、君たちはブルーコスモスって呼ぶんだっけ?とにかくそれは、発動できないんだ〜よ〜」
道化のような浮ついた態度だが、この男は天使族の末裔だ。知っててもおかしくはない。
「お前は天使族だ。俺たちを罠にはめようとしてそう言っている可能性も」
「そう思うならそれでいいよ〜」
いい加減な態度に、心が揺らぐ。
ここで信じてくれと言い募るようなら、すっぱり嘘だと断ずることも出来たのに。
どうしようかと、彷徨う視線がミリィで止まる。
ルルの迷いに気づいたのか、彼女は口を開く。
「ロイさんは、もんの凄く適当で信頼なんて全然出来ないけど。嘘は言わないんじゃないかな」
あは、僕ってば散々な言われようだね〜。と言うロイの批判が聞こえるが。
封印が解けてから一週間たっても、未だブルーコスモスが発動された形跡がない。ロイが言っていることは真実なのかもしれない。
「ナリ。ミカエリスに行くぞ」
熟考の末、ルルは歩き出す。
もれなく鬱陶しい男たちが付いてくる様な気がしたが、無視することにする。
ミカエリスにナイゼルの力が眠っているのならば、禁呪を使うためにそこへやって来るはずだ。
四百年前と変わらないこの世界を見れば、あいつは間違いなくあの術を使いたくなるから。



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