「ミカエリス編〜王都地下研究室」
ジールパドン王都、エターナルクイーンとも呼ばれる女王の住まう居城、地下にその施設はあった。
薄暗い研究室内にある光源は、水をたたえた円筒状の入れ物。人一人がすっぽりと収まるサイズのその器具は無数にあり、広い室内に整然と並べられている。緑色に光る特殊な液体の中には、眠るように目を閉じた人間や亜人の姿。被験者と呼ばれるそれらの一つ、新しく手に入れてきたものが入った容器を愛おしそうに撫でて、ここの研究所の主は艶やかに微笑んだ。
「思わぬ拾い物だったわ。まさかアナタが片割れだったなんてね」
生命を維持するために満たされた液体のせいで解らないが、この容器の中で眠る娘はエメラルドグリーンの髪をしている。ミカエリスから連れてきた人間の少女。名はセラと言ったか。
「私はついてるわ。望まなくても必要な物が手に入る。それはつまり、天にその行いが認められているということ。どうかしら?アナタたち科学者が否定した理論に負ける気持ちは」
ルルと同じ、漆黒の髪をなびかせて彼女は振り返る。挑戦的な眼差し。力強い黒曜石の瞳。
マリアンネに話しかけられた男は答えない。それを気にすることなく彼女は口を開く。
「きっと驚くでしょうね。科学的に立証できないから無いのと同じと判断したんですもの。科学も、非科学と纏められた全ての学問も、どちらも世界を知ろうというところから始まった。根本は同じ、けれど見ている側面が異なるというだけのこと。畑が違うから、立証できるわけがないのにね」
世界をひっくり返す。その偉業に胸が高鳴る。笑いが漏れる。
「ふふ。私は《ミューズ》になるの。この力で、全てを奪うの。そのためにも、フェミアを手に入れなくてはいけない。アナタになら、心を閉ざしたあの子も反応すると思うわ。頼めるわよね?」
女王の言葉に、白い騎士服に身を包んだ栗色の髪の青年は跪き、
「御意のままに」
マリアンネの手を取り口づける。
その様子を満足そうな眼差しで見つめて微笑む。
「期待しているわよ。ザク」