「再会〜ルル side」
草をかき分け、道無き道を進む。行く場所など決めていない。ただ、一人で考え事が出来る場所が欲しかった。
「俺は……」
ミリィはフェミアの生まれ変わりだという。フェミアのことが好きだったザクは、彼女との再会を願っていることだろう。だが、そのミリィは心を閉ざしてしまって記憶どころではない。彼女を元に戻し、ザクに会わせてやりたい。
「どうしたら」
今度こそ守り抜くと誓ったナリは、母に連れて行かれてしまった。ルルの妹ということは、マリアンネの実の娘ということだ。殺されることはないだろう。だが、母はナリに乗り移っていた。それは本人の意志を奪うということだ。年月のせいか、あの優しかった母は変わってしまった。母親だからといって、身の安全が保証されるわけではない。
ミリィが自我を取り戻すのを助けるべきなのか。
王都へ赴き、ナリをこの手に取り戻すべきなのか。
どちらも選ぶことが出来ない。どちらかを選べば、どちらかを遂行出来なくなる。
「ザク」
ザクに会って相談したかった。ザクがいれば、選べるような気がした。だが、今ここにザクはいない。
今なら、どちらを選んでも間に合う。このまま国境を越えてしまったら、ナリは手遅れになってしまうかもしれない。そう解っていても決められずに、答えを探すかのようにルルは山中をさまよい歩く。
その時、手入れされていない、自然そのままの草木だけだった景色が一変した。
目の前に現われたのは、月明かりを反射して輝く、白い小さな花が視界いっぱいに咲く高原。植物が生育できない、汚染された土地でしか生きられない、たくましくも儚い花。
「セレーネの花。フェミアが好きだったよね」
「ザ……ク……?」
ルルが訪れることを予見していたかのように、白い騎士服を身に纏った青年は口を開く。視線はルルを捉えず、過ぎ去った日々を思うかのように月に向けられている。
夢を見ているのかと思った。こんな都合良く彼に出会えるとは思っていなかった。
「本当に、ザクなのか?」
問いかけると、月光に照らされた彼の顔がこちらを見て微笑んだ。
「俺がこの世に2人もいるわけないだろ?」
幻想的な光景だったが、これは夢ではない。
突然手元に転がり込んできた幸運に対応できず、呆然としているルルの顔を覗き込み、ザクは首を傾げる。
「悩み事か?」
「……ああ」
いつもそうだ。自分では普通にしているつもりでも、フェミアとザクには気づかれてしまう。
経緯を簡単に話すと、
「ナリちゃんは大丈夫だよ。マリアンネ様とナリちゃんは親子だ。母親が子供に酷いことをするわけがない」
「そう……だよな」
ザクの力強い肯定で、胸にあった靄が霧散する。
「ミリィを助けたいと思った君を、俺は誇りに思うよ」
そう笑うザクは、ルルが善意からミリィの手助けをしようとしていると思っている。ミリィがフェミアの生まれ変わりだということを、ルルはどうしても言えなかった。
ミリィがフェミアであれば良いと思う。そうすればこの親友は喜ぶのだから。ミリィだって、自分が消えてしまえばいいと思っているのだから、彼女がフェミアになっても問題ないはずだ。
なのに。
《私、誰なんだろう……?》
《私なんて、生まれてこなければ良かった》
ミリィの言葉と、瞳からこぼれる大粒の涙を思い出す。
彼女が消えれば望みは叶うのに、彼女に消えて欲しくないと願う気持ちがある。
「俺にも君の手伝いをさせて欲しい」
「ああ、お前がいれば心強いよ」
願ってもない申し出なのに、ルルは彼の目を見ることが出来なかった。