「世界のしくみ2」


「あと、エルフと人では一度に扱える元素の数にも違いがあるから、それも質の違いに繋がっているのかも」
と、補足して。フェミアはザクを真っ直ぐに見つめる。自分の言ったことを受け入れてもらえるのかどうか心配している、そんな面持ち。
元素を意識しなくても、人は火を燃やすことが出来る。でも、元素を理解していれば火をもっと大きくすることが出来る。ルルが過去に言っていた、エルフの魔法は高度だというのもそう説明を付ければ納得がいく。
魔法が化学に基づいたものだと、言われてみればそんな気もするけれど。
「それが、科学が発達した故の産物だと仮定しても、その技術は何かしらの……俺たちの言うコンピュータのような装置によって起こされるんだと思うんだけど」
ザクの質問に、フェミアは喜びの表情を浮かべる。
「その装置は、私たちはフルメタル=アルケミストって呼んでるのだけれど、それはそれは大きな建造物で、この星の何処かに埋められているそうよ」
その技術が実在するとして。それを引き起こす装置があるとして。それでも、まだ納得できないことがある。
「それが全部本当だとしても、その装置はどうやって使うの?」
地中に埋められているんじゃ、スイッチを押すことも出来ない。それに、どこにあるかも解らない状態のようだし。
「じゃじゃ〜ん☆ここで、もう一つのロストテクノロジーの出番なのです!」
「……フェミア?」
突然、フェミアはどこからともなく紙芝居を取り出す。フェミアの足下でたまっていた落ち葉が無くなっているから、魔法で紙芝居に変換したのかもしれない。
「お客さん。チャンネルを変えるのに、わざわざテレビの傍まで行くのは面倒くさくありませんか?そんな時、このリモコンが大活躍!これ一つで、チャンネルの変更から電源を入れる切るの動作まで出来るんです!今ならこれをお買い上げの皆さんに、同じものをもう一個プレゼント!」
紙芝居は、まるでザクの故国で放映されていたテレビショッピングの様相で。司会者のなまりのある口調まで完璧に模倣されている。
「わー、お得ー」
もう一個もらっても、結局使わないんだよなと思いつつ、フェミアのノリノリの雰囲気に飲まれてザクは合いの手を入れる。
それを満足そうな顔で見て、フェミアは紙芝居に戻る。
次のページには、「しばらくして」とだけ書かれており、すぐにページがめくられる。
「お客さん、テレビのチャンネルを変えるのに、リモコンを使うのは面倒くさくありませんか?」
「リモコンって、家の中で行方不明になったりするもんね」
ラジカルフェミアンの時のように、何をしても抗えないようだったから、ザクは素直に話を合わせる。
「そんな時!全ての機械のリモコン機能を搭載したこの帽子が便利!これは持ち主の脳波を感じ取って、その機械に合った信号を発するんです!」
「脳波って、そんな微弱なものを帽子で感じ取るなんて……」
出来るわけがない。出来たとして、集中力が無ければスイッチの入れ切れすらも簡単にはいかないんじゃないだろうか。
そんな否定的な考えを、
「そこがロストテクノロジー!」
の一言で一蹴して、フェミアは次に進む。
ロストテクノロジーだから。科学技術が進んだ文明の産物だから。今の技術では夢物語でも、進んだ文明では当然のことだから。あり得るのかもしれない。
でも、今の技術を知っているから、いまいち腑に落ちない。
「しばらくして。お客さん、ものを操作するのに、帽子をかぶっているのは不格好ですよね!そんな時、このチップを脳と受信装置にセットすれば楽ちん☆手ぶらで、しかも思っただけで受信装置をセットしたものを操れちゃうんです!……えーと、脳に埋め込む方に、脳波を増幅して送信する機能が付いていて、テレビとかに付ける受信装置の方に脳波を受信してテレビを操作する機能が付いてるのね」
という説明と同時に、ページがめくられる。そこには、「世界的に大ヒット。販売される全ての製品に受信装置が内蔵される」と書かれていて。
どんどん小型化されて、どんどん身近になって、それで……。
それで行き着く先は……?
フェミアやルルに、手術の跡は見られない。だから、この技術はもっと進歩するのだろう。
ザクは、フェミアの紙芝居「ザ・技術の進歩」を、固唾を呑んで見守る。
「お客さん、チップを脳に埋め込むのは時代遅れです!今は遺伝子組み換え技術が進歩した時代!脳波を送信できる遺伝子配列を発見いたしました!これで一回の手術で、一族全てがこの能力を獲得できるのです!お得ですよ!」
そんな感じで、手ぶらでフルメタル=アルケミストを使えるようになりました。というページを最後に、味のあるイラストで綴られたフェミア劇場は終幕を迎える。
「魔法を使える人と、使えない人が混在しているのはこういう理由が有るからなの」



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