「まどろみの中で」


断頭場に上った少女が、大衆の中に俺を見つけて悲しげに微笑んだ。
「ごめんなさい」
まわりの人間が騒いでいるせいで、自分の声もろくに聞こえないのに、小さく呟いたのであろうその言葉が、聞こえたような錯覚。
謝る必要なんて無い。人々を苦しめて、こんな凶行に走らせたのは、君の願いを履き違えたあいつなのだから。
それなのに何故。全ての人の幸せを願った彼女がそのような所にいるのか。人々が平和に過ごせるようにと尽力していた少女の生命が今にも消えようとしているのか。
「──フェミア!!!」
断頭台に近づこうと、必死で人の中を進んでいく。
魔力さえあれば。当代一と言われる、強大なあの魔力があるなら、こんな人垣を飛び越えてフェミアを助け出せるのに。
「ルルはちょっと魔力に頼りすぎよ」と、いたずらっぽい笑顔で言い放った少女。
彼女の魔法を打ち破る術は心得ている。
──だが。
「フェミア!!くそぅ、どけ!」
人波をいくら掻き分けても、先頭にたどり着けない。逆に、後ろへ後ろへと押されているような感覚さえある。
国を出るときに、何が何でも守り抜くと約束したのに。
カラン……カラン……
村の中心にある教会の乾いた鐘の音。
人々が待ち望んだ「紫眼の魔女」の処刑の合図だ。
少女は、震えることも、臆することもなく、気丈に断頭台へ向かう。
魔力さえあれば。
無力な子供に成り果てた少年は、力を欲する気持ちを抑えきれない。
「魔力なんて無くても大丈夫」と思えば魔法は解けるのに。どんなにそう思い込んでも、心の奥底の、魔法を頼る気持ちを消せない。
平時であるなら、魔力なんて無くても良い。
だが、こんな時だからこそ。
紫眼の魔力を抑えられて、紅く変色した少年の瞳が、少女の最後の姿をとらえる。
滴る鮮血。伝う涙。呆気なく終わる少女の人生。
何故。どうして。溢れる疑問。紅い瞳に宿る怒り。
風が熱を帯びる。
怒りが、少女の魔法を強引に打ち破る。
少年の瞳が、いつもの紫色を取り戻し、そして──。



「ルル様?」
柔らかな紫の眼差し。心から案じる声。
「フェミア……?」
定まらない焦点。
「俺は……お前を守れなくて」
視界がはっきりしないのも、揺らいでいるのも、頬を伝う暖かいもののせいだろう。
暖かい両手に包まれる。心まで包み込むように優しく。
「背負い込まないでください。自分の身は自分で守りますから。私、足手まといでも頑張りますから」
ああ、それでも俺は。今度こそは守り抜くから。
決意は言葉になれずに。
生まれてすぐの優しくて暖かい、幸せしか知らない頃の夢と共に消えていった。



back  next