「まどろみの中で2」
サアァァァ……
風にさらわれた薄紅色のカケラが空に舞う。
ヒラヒラと降り積る様子はまるで雪景色。
季節を誤認させる風景が、記憶か夢かの判断を鈍らせる。
「あの黒髪の方が、貴女のお兄様ですよ」
姿だけが分かる距離。黒髪の少年は桃色の髪の少女と一緒に、花を見ながらお弁当を食べているようだ。
双子の兄がいる。大人たちが話しているのを聞いて、会いたくなった。生まれた時から、一人ぼっちだったから。
「お兄様には、お耳も尻尾もないの?」
ケット・シー族は、猫の姿をした人、人間に近い容姿の人と、見た目に幅があるものの、
それでも人外の生物である証の獣の耳、獣の尾は共通している。
その両方がないということは──。
聡い少女に苦笑して、乳母が口を開く。
「ルル様は人間でいらっしゃいます。それでも、ナリ様と同じ母君、マリア様からお生まれになったこと、決して嘘ではございません」
繋いだ手から伝わるのは、誠実な想い。
彼女の言ったことはきっと真実なのだろう。少女の気持ちを満足させるだけなら、もっと兄役に相応しい人物がいたはずだ。
──お兄様は人間……。
「私にお耳と尻尾があるから、お母様もお父様もお兄様も会いに来てはくれないの?」
ふと思ったことを口に出しただけなのに、胸に痛みがはしる。堪えきれず、涙が頬を伝う。
「そ、そのようなこと……!!」
しゃくり泣く少女を、乳母が抱きしめる。
暖かな体温。それでも、寂しさは拭えず。
大好きな彼女を困らせるだけとは分かりつつも、涙は止まらなかった。
これはただの夢。
ルル様と私では、年齢に開きがあるし、同じなのは瞳の色だけ。
夢と違って、私には父も母も居る。
きっと、彼に惹きつけられるのは何故か、考えながら眠ってしまったから、あんな夢を見たのだろう。
「俺はしばらく一人にさせてくれと言ったはずだが?」
すぐ傍らで声がして、ハッとする。
一人にさせてくれと言い残し、フラフラと部屋にこもったっきり、食事の時間になっても出てこない彼を心配して見に来て、私は──……?
「あまつさえ、他人の膝を枕代わりに就寝とは。良いご身分だな」
「す、すみません!!!」
夢と現の境ではっきりしていなかった意識が、一気に引き戻される。
いつも通りの不機嫌そうな表情に、ほっとするのは、悪夢にうなされていた彼を見たせいだろうか。
「ザクはどうした?」
「昼食を買いに行かれました」
見慣れない彼の背中。何かがいつもと違う。
「残念だが夕食に変更だな。さっき7時の鐘が鳴った」
明かりに灯がついていることで気づかなかったが、外は暗く、空気は冷えてきている。
彼はいつから起きていたのか?
「俺は行くが……お前はどうする?」
私の膝には、毛布代わりに掛けられた闇色のマント。
「ご一緒させてください」
彼に惹かれるのはきっと。
この、さりげない優しさのせい。