「正義の味方、ソーサラースイーパー・ビカミ」


「長男、風来策士・ボウ」
「長女、妖艶な狐火・ダキ」
「次男、幻術の貴公子・ゼン」
「次女、時の番人・キビ」
「三男、魔法剣士・テン」
「五人合わせて、ソーサラースイーパー・ビカミ!」
どどどどどーん。
それぞれの服と同じ色の煙が、キメポーズを取った五人の背後に立ち上る。
「さぁ、悪者め、その子を放すんだ!!!」
はぁぁぁぁぁ……。
本日何度目かもう覚えていない、自称正義の味方の登場にルルは頭を抱えた。
この町に入ってからというもの、五人組に行く手を阻まれる、悪者呼ばわりされる、退治されそうになる、魔法でまとめてブッ飛ばすの繰り返しだ。
二人の前に立ちはだかる五人組は、毎回色の組み合わせや、それぞれの関係などに違いがあり、今回はビカミ家五兄弟が相手のようだ。
「兄弟魔法、封魔計画!!」
先程までと同様、風の魔法で吹き飛ばそうとしたルルの腕に、五兄弟の封印術が決まる。
「なっ!?」
念じても術を唱えても、魔法が発動しない。
「魔法が使えない吸血鬼なんて怖くないさ」
三男の素早い動きに、魔力を封じられたルルは付いていけず。
「ぐっ……!」
手にした短刀で相手の剣を受けることなく剣の腹で頭をどつかれ座り込む。
「殺生はしない主義さ」
「お嬢さん、もう大丈夫ですよ」
紅色の服の少年と入れ替わるように、青色の服の少年がやってくる。野性味溢れる顔立ちの紅の少年とは違い、甘いマスクの青の少年。
「ルル様にかけた封印を解いてください」
女性ならば、お年寄りから赤子まで魅了されるであろう幻術の貴公子の美貌を物ともせず、ナリは静かに言った。
「もう、この吸血鬼さんに従わなくて良いのよん、子猫ちゃん」
ルルの上に優雅に座り、微笑む桃色の美女。
──「吸血鬼」……そうか。
一連の騒動に得心がゆく。が、女性の理想とも言えるプロポーションからは想像できない重みに、ルルは動くことが出来ない。
「お願いします。封印を解いてください」
意志を曲げないナリの眼光に戸惑い、四人は長男を仰ぐ。
「恐ろしく深く呪術で縛られておるようだのう。時を戻して開放するしかないかのう」
面倒くさい、早く怠けたいと表情に書いてある緑色の衣装の少年の声に、
「じゃあ、キビの出番だねッ」
黄色の幼女が待ってましたとばかりに応じる。
あれは時を退行させる魔術式!?
唯一動く視線がとらえたのは、超高等魔法。
魔法と相性が合う人間が少ない上、消費するエネルギー量が多く、卓越した術者でも発動までに時間を要するこの魔法を、実際に見たことはないが。間違いない。
また俺は、約束を破ることに……!!!
ナリに重なるフェミアの微笑。
一度戻った時間は、前と同じ未来を描けない。
人格は経験の集大成。生きる時が変われば、性格も考え方も変わってしまう。
守ると約束した存在を、また失うことになる。
「ナリー!!!」
術式完成。ナリの驚いた表情、そして嬉しさを一杯に浮かべて。魔法発動。
「リリーズ!!ルル様、封印を解除しました。早く!」
取り戻した充実感。危機に直面した後の精神の高揚は抑えられない。
「ふはははははは。俺に土の味を教えた報いを受けるがいい!!!」
悪役然とした顔、仕草、言葉。
想定外のことに対応が遅れた正義の味方兄弟を、当初の予定通り、暴風で吹き飛ばした。
我ながら甘い意趣返しだな。
「ルル様」
自嘲の笑いを浮かべるルルに、ナリは駆け寄る。
「今」
名前を初めて呼んでくださいましたね。私、嬉しいです。
喜びを告げようとして、予想外の言葉に遮られる。
「お兄様だ」
「え?」
「これから俺とお前は、旅する兄妹という設定でいく」
吸血鬼に間違えられる最大の要因を外す。
ルル、そのマントは……止めたほうが良いと思うよ。
ザクの言いなりになる様でいい気はしないが、約束を守るためには仕方がない。
「いいな?」
返事が聞こえないので、念を押す。
こくりと動作で了解の意を示し、言葉に表す。
「解りました。お、お兄、様」
ぎこちない。
「仕立て屋に寄る」
ふいっと目を逸らして、歩き出す。
「はい」
お互いにその呼び方に慣れるまで、時間がかかりそうだ。



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